後日談(番外編):生牡蠣が旨くて黙り込む2010年06月04日 21:41

 
ジャッポネーゼの夕飯に比べると、彼らが夕飯をとる時間はやけに遅い。私はいつも(彼らに比べると)非常に早い時間に食事を始め、早々にレストランを退散する。しかし彼らは、「そんな時間に大量の食べ物を胃袋に押し込んでは、健康に悪かろう」という遅い時間帯にレストランに集結する。
したがって、私がいつも午後7時あたりに食事を始める頃、店はほとんど貸し切り状態である。たまにほかの客がいると思うと、ドイツ語が聞こえてくるのが常である(この方々はまた別の理由で早めに食事を始める必要がある)。

とある街の眺めのいいレストランの屋外の席で一人、そんな完全貸し切り状態を楽しんでいたところ、隣の席に、一組のイタリア人カップルがやってきた。イタリア人にしては、やけに早い時間からの食事である。
しかも、なんとなく落ち着かないような、急いでいる雰囲気もあって、その時間帯に食事をとっておかなければならない事情が何かありそうだった。
まあ事情はともあれ、そんな彼らが、まずは注文したのが生牡蠣で、私もちょうど生牡蠣を頼んだばかり。自分の選択が間違っていなかったと確信。大好物の生牡蠣が登場するのが楽しみになった。

そして私の席と、彼らの席にそれぞれ生牡蠣の皿が運ばれ、さっそく生牡蠣の殻をカチャカチャいわせ始めた頃、彼らの席で携帯電話のベルが鳴った。

"Il mio marito."(私の夫だわ)

と「彼女」がつぶやき、瞬間的にあたりが静まり返った。なぜなら、その場にいた「全員」がそのカチャカチャいわせていた手を止めたからである。
「彼女」がナイフとフォークを握った手を止めたまま、鋭い視線で「彼」の顔をじっとみていた。携帯のベルは鳴り続け、「彼」の方が、唇をかみしめるようにして首を振り、そしてナイフとフォークを置いた。
私は、隣の席に漂う(かなりの)緊迫感に(かなり)圧倒されつつも、このまま固まったままではマズイと思い、食事を続行。再び生牡蠣の殻をカチャカチャいわせながら、「彼女」が「夫からの」携帯に出るのを待った(いや、待つ必要もないのだが)。

だが、携帯に出たのは「彼」の方だった。あれっ?なんで?
どうやら、「彼」の方にかかってきた電話のベルを、「彼女」は「私の夫から」と指摘したらしい。だが、なんでそんな指摘が可能だったのか・・・???

さて、携帯に出た「彼」の話ぶりからして、その電話の相手は「彼」の仲のいい友達らしかった。な~んだ、「彼女の夫」が「彼の友達」という、それだけのことなのでした。だから「彼女」は、電話をかけてきた主が夫と推測できたというわけで、いやいや、「彼女」の一言で、私は全く別の想像をしてしまったけれど、実際は全くの"Non c'e problema"でした。みんな仲良しということで、一件落着!

その後は「全員」が食事続行となったが、隣の席の会話は全く弾まなくなり、二人とも黙り込んでしまった。それほどに、この生牡蠣はあまりにも旨かった。

ホントに、おいしかったんですよ、これが。

スナフキンだって、いつもソロキャンプ2010年06月09日 00:36

 
最近始めた遊びは「ソロツーリング焼肉キャンプ」というやつ。
一人でバイクに乗って出かけ、キャンプをして焼肉を食べるというお遊びである。
今回(6/5土~6/6日)は、八ヶ岳北側にある駒出池キャンプ場に行ってみた。
http://yachiho-kogen.jp/komadeike/index.php

天気予報では午後に夕立がありそうだったため、午後2時頃にキャンプ場に入り、早めにテントを設営した。その後は、池の周りを散策したり、本を読んだりしながら過ごす。
この池は、高原の湧き水であるため、とても透明度が高い。周囲は明るい林で、沢のせせらぎが常に聞こえている。テントサイトには、黄色い小さな花が咲き乱れていて、「地上」とは別世界であった。

日没後は真っ暗で焼肉が困難となるため、午後5時半から焼肉開始。「らくらく炭」という商品名の固形燃料で、前の晩遅くにスーパーで「半額」になっていた信州牛カルビを網焼きにする。当然ビール付き。
一人で焼肉店に行くのは気がひけるが、キャンプなら一人でも堂々とやれる(誰も見てないし)。マンションの一室で網焼きなどしたものなら、1週間はその匂いが消えないけれど、屋外なら煙も出し放題。しかも安上がり。牛肉1000円、野菜300円、燃料100円、タレ100円の予算で満腹まで楽しめる。

信州牛カルビは冷凍して持ち込むのだが、それだけでは、ツーリングの途中で完全に解凍状態を通り越して温かくなってしまう。そのため、缶入りワインを冷凍庫で冷やしておき、肉や野菜の保冷剤として持って行く(当然、保冷剤という役割だけではもったいないため、必ず飲む必要がある)。
焼肉が終わって日没となると、急に冷え込むので、必ず日本酒を熱燗にして体を温める必要がある。そして午後10時を過ぎる頃にもなると、周囲は真っ暗になって人気も全く感じられなくなり、林の奥から得体の知れない音が聞こえたりして、とても恐ろしく、トイレにも行けなくなってしまうため、「酔ってなきゃ、やってられないぜ」と、必ずウィスキーを飲み始める必要がある。午前0時にもなろうものなら、一気に気温がどーんと下がり、必ず焼酎のお湯割りで・・・

こうして、それぞれの時間帯に生じる、やむにやまれぬ理由によって、テントの中でひたすら飲み続けなければならないのが、唯一つらいところではある。また、持ち込む酒に万が一にも不足があってはならず(ある意味、これが一番恐ろしい事態である。熊やマムシの出現よりも)、臨機応変の酒類選択の必要が生じるため、多品種にしてそれぞれ「適量」の酒の事前買い出しが大変だったりするのが、この遊びの難点ではある。

それでも、この美しい景色の中で過ごせる時間は、ホテル泊では決して味わうことのできない価値がある。透明な駒出池の、朝の、昼の、夕刻の、夜の、それぞれの美しい表情を眺めることができて、日頃抱えている雑念が吹き飛んだ感じがした。

ただ、後から駒出池に辿り着いたハーレー軍団のおじさんの一人が、私のテントの前までやってきて、こう仰った。何かその、このお遊びの本質を鋭く突いたような、まあとにかく、大変に意義深いお言葉であった。

「一人なの? 一人なんだ。でも一人っていうのは・・・。
 ・・・へぇ~、一人ねぇ。」

寫眞たるもの、かくあるべし2010年06月15日 23:05

  
この写真は、先日、松本の街角で見かけたキャッチコピー。

 生ける描写
    個性の表現
       藝的技巧

その古びた店舗は、かつての写真館だったのか、それとも画材商だったのかが全く判別できなかった。それほどに、"閉店"後の歳月は流れ、現役の店舗として活気があったであろう頃の気配は消えていた。

絵を描くのがかなり下手で、写真を撮るのは人並みよりちょっとだけ上手い私としては、このキャッチコピーが、願わくば写真館のものであったと思いたい(真偽不明だけれど)。

例えば金婚式の記念にと、とある夫婦とその子どもたちや孫たちが写真館を訪れる。
その瞬間を生きたその家族の生ける描写であり、その生き様を写し取った個性の表現である写真、そして藝と技術に裏打ちされた写真、店主の心意気は、そんな写真を完成させるところにあったのだと・・・。

まあ、日頃なるべく手を抜いて、運良く偶然にも上手い写真が撮れたらな~なんて考えている私としては、身が引き締まる思いでした。